天上岬の守護妖精
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困ったことが起きた。とても困ったことが。
私の家は樹の上にある。俗にいう『ツリーハウス』というやつ。
いつもは静かなこの家なのだけれど、ココ最近来客が多い。
つい先日はヴェレッドという名前の"とこしえの樹"の守り人が、私の家にやって来た。
話によれば、私のひいひいお祖母様の知り合いらしく、
私たちの一族が結界魔法が得意ということも知っていて、
その力は"とこしえの樹"の窮地を救う使命のためにあるとかなんとか。
そういう流れで、私は"とこしえの樹"の頂上付近で、結界を張って待っていたというわけ。
……でも、よく考えれば、そんな使命だとかは、結局大人の都合。
大人が勝手に決めた使命に、子供を巻き込まないでほしい。
私はそれがイヤだった。
結婚相手が決まってるとか、行く場所が決まってるとか、使命とか……。
そういうのが全部嫌になって、私は外の世界から天上岬に逃げてきた。
この美しい場所で一度眠ってしまえば、そういう使命とか過去とかがスッカリ無くなって、
気持よく目覚められるかも、なんて思って、私は毎日を生きている。
でも、そんな日は来ない。そんなことはじめから知ってる。
だけど、私は明日を願って眠らずにはいられない。
何もかも捨てられる明日を夢見て、眠りの中に逃げている。
夜も朝もない、このあいまいな世界で。
……それなのに!
ゴチャゴチャゴチャゴチャ私の家の下で騒ぐ奴らが居る。
黙ってればそのうちどこかに行くかと思ったけど、まったく動く気配がない。
ついに私は限界に達した。
「夢くらい自由に見させなさいよ……アッタマ来た!」
私はそう叫ぶと毛布を蹴り飛ばし、ドアを勢い良く開けて下へと飛び降りた。
「うるさーーーーい!! ソリッサの家の近くで、騒ぐなーーーー!!」
……とまあ、ここまではよかった。
「……そ、ソリッサ、お前ずいぶん可愛いパジャマ着てんだな。ナイトキャップまでして」
「うぐ……」
グルグルに縛られた獣人──確かカルテロとか言ったっけ──が、私の格好を見て言う。
そう、私は自分が完全にパジャマスタイルだということを忘れていたのだ。
「あの、ソリッサ……?」
フェルチさんが私に憐れみの声をかけてくる。
困った。大変困った。超恥ずかしい。
勇んで出てきたのは完全に失敗だった、ほんとにもう今日は厄日だ……
と思った私が逃げ出そうとした時。
──その場に、懐かしい香りが漂ってきた。
そして同時に皆が、それに気づき、私は皆の視線を追ってハッと振り返る。
「これは、とこしえの……」
私の背後にある大きな古木。
一見して大きな虚(うろ)があるとわかるその木から、その香りは漂っていた。
「なんと……」
その虚の中を見た瞬間、ベアードが感嘆の声を上げる。
森の守り神に包まれるように守られながら、それはあった。
巨大な、つぼみが。
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