外伝 トミ・コトブキ編
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「喧嘩神輿とうなめんと」。それは人々の願いを叶える神々が唯一自らの願いを託す場である。 | ||
八百万とも呼ばれる数多の神々が自らの願いを叶えるため、その頂点を目指すのだ。 | ||
そして、ここにも切なる願いを抱いた神が一柱。商売繁盛を司る神トミ・コトブキである。 | ||
トミ……。長くこの私を縛りつけていた私の名。それも次の「とうなめんと」の日で終わり……。 | ||
今回は舶来の「てぃーむめいと」がいますし準備は万全ですわ。舶来の神は馬力が違いましてよ! | ||
ククク……優勝はこの私のものですわ。そして、晴れて私は真の名を!! | ||
と、気合を入れてみたものの。 | ||
ふとトミは不満げに眉を寄せて、算盤の珠を一つ弾いた。 | ||
……ただ、まぁ……優勝できないと大赤字ですわね。 | ||
ですが、その分良い働きをしてくれるはず……! 最後に会場の視察でもして、帰りますかしら。 | ||
そう言うと、トミは算盤をシャカシャカと鳴らしながら、鼻歌交じりに歩き出した。 | ||
喧嘩神輿の前に立ったトミは、絢爛に飾り立てられた神輿を見上げる。 | ||
この神輿の上で私は新しい私となる……。「ジョゼフィーヌ」に! | ||
ジョゼフィーヌ……。まるで舶来の書物の「ひろいん」のような美しい名ですわ! | ||
彼女は、生まれながらに持つ自分の名前を…… | ||
舶来の書物の「ひろいん」のような「びゅーてぃふる」なものに変えたかった。 | ||
だが、生まれながらにして与えられた名前は、神であろうとそう簡単に変えられるものではない。 | ||
だからこそ、今回トミは喧嘩神輿に願いを託すことにしたのだった。 | ||
…………。 | ||
よし。 | ||
トミ……ジョゼフィーヌは辺りに誰もいないことを確かめると、居住まいを正す。 | ||
そして、彼女は咳払いをひとつすると、芝居がかった口調で独り言を言い始めた。 | ||
~ ・*・『 ジャン・ピエール……もう終わりですわ。 あの街の火がこの王宮に届く。それがこの愛の終わり。 』 ・*・ ~ | ||
次に彼女は胸を張り、男の声色をマネてこう続ける。 | ||
~ ・*・『 ジョゼフィーヌ、それは違う。 』 ・*・ ~ | ||
~ ・*・『 え? 』 ・*・ ~ | ||
~ ・*・『 命数は尽きるが……僕たちの愛は終わらない。 』 ・*・ ~ | ||
~ ・*・『 ジャン・ピエール! 』 ・*・ ~ | ||
~ ・*・『 ジョゼフィーヌ! 』 ・*・ ~ | ||
……と、ここでトミは周辺をもう一度見回し、誰もいないことを再確認する。 | ||
フフフ……。マトイさんのようなことをしてしまいましたわ。自重、自重と。 | ||
…………。 | ||
~ ・*・『 ジャン・ピエール。私、怖いですわ。 終わることがこんなに恐ろしいなんて……。 』 ・*・ ~ | ||
~ ・*・『 ジョゼフィーヌ……。終わりではないさ。 夜が終われば、それは夜明けじゃないか。 』 ・*・ ~ | ||
~ ・*・『 ジャン・ピエール! ジャン・ピエーーール !! 』 ・*・ ~ | ||
完璧にやりきった感のある顔をして、トミは満足気にため息をついた。 | ||
えへへ……よかなぁ……こげん物語んごたる恋ばしてみたかなぁ……。 | ||
あん物語んごたステキな男神さんのおったら、もう、もう……! | ||
思わず素の出たジョゼフィーヌは、にへらと緩んだ笑いを浮かべる。 | ||
だが、その時。 | ||
背後の襖がガタン、と音を立てた! | ||
なっ……! く、曲者ォォーッ!! | ||
(戦闘終了後) | ||
ジョゼフィーヌが投げ放った小判は襖を弾き飛ばし、物音の正体を明るみに出した。 | ||
わっ! びっくりした。ト、トミちゃん、いたんだ……。 | ||
ミ、ミコトさん……。あなたそんなところで何をしていましたの。包み隠さずすべて言いなさい! | ||
見聞きしたことすべて言いなさい! あと、私はジョゼフィーヌですわ! | ||
え!? えーと、私、和歌を考えながら歩いていただけだから……。 | ||
ほ、本当ですわね! ちゃんと証文にできますわね、そのこと。 | ||
う、うん。 | ||
一両賭けます? | ||
か、賭けてもいいけど……。 | ||
ほっ……。一両賭けられるなら大丈夫ですわね。で、どんな和歌ですの? 考えていたのは? | ||
あ、聞いてくれるんだ。 | ||
今の私はとても寛大な気持ちですわ。一文あげてもいいくらいですわ。 | ||
そういうことなら、詠んでみましょう。 | ||
ミコトは筆と短冊を取り出し、深く息を吸うと、カッと目を見開いた。 | ||
では……! | ||
ジャン・ピエール ああ ジャン・ピエールジャン・ピエール。 | ||
ギャー! き、聞いてるじゃない! | ||
大丈夫。夜の終わりは、夜明けだよ。 | ||
最後まで聞いてるー! よ、寄越しなさい、それを! | ||
奪い取った短冊を破り捨てようと手をかけたとき、不意に短冊の文字が目に入った。 | ||
『じゅん・ぴえーろ ああ じゅん・ぴえーろじゅん・ぴえーろ』 | ||
じゅん・ぴえーろ、ってどこの誰ですの! | ||
あ、また誤字っちゃった。 | ||
「喧嘩神輿とうなめんと」。それは八百万の神々が切なる願いを抱き、すべてを賭ける祭り。 | ||
その願いの中身は、色々である。 |
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