名もなき王
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暗黒。 | ||
最初の印象はそれだった。 | ||
黒く淀んだ何か──それは恐らく人型であった。 | ||
…………。 | ||
黒の佇まいに息を呑む。 | ||
明らかに"異質"だ。 | ||
魔道艇を飛ばし、やってくる敵を倒してきた君は、やっとの思いで敵地に辿り着いた。 | ||
ディートリヒ・ベルクは君の隣に並び、異質な何かを睥睨する。 | ||
これが私の敵か。存外、矮小に見える。 | ||
ディートリヒは、まるで何も感じていないのか、その敵を前にしても普段と変わりない。 | ||
──〈イグノビリウム〉我が肉体の名だ。完成されたこれは軍であり、群れ。 | ||
……耳障りな音だ。聞き苦しいにもほどがある。 | ||
ディートリヒに、暗黒の言葉は届かない。 | ||
君には、しっかり言葉として意味が理解できている。 | ||
我が体は、高位の生命体を探している。 | ||
だが、この世界に生命体は、我が肉体、ただひとつ。足りぬ。これでは足りぬ。 | ||
…………。 | ||
君は、魔力を込め臨戦態勢を整える。 | ||
撃て。 | ||
はっ。 | ||
銃声音が響く。 | ||
この肉体が、完全に覚醒めるために、血肉が必要だ。これでは、安堵に至らない。 | ||
異界の存在よ。その魔法、とくと見させてもらった。 | ||
幾度も幾度も幾度も……その魔法で、我が肉体が滅んだ。 | ||
だが届かぬ。その程度の刃では、我が肉体を殺し切るには至らぬ。 | ||
言葉に耳を傾けるな、とアウルム卿が仰っていました。貴官は下がってください。 | ||
ふん、くだらんな。私の敵がこの程度の"カタチ"など。 | ||
さあ、失せろ。異界の存在よ。 | ||
黒い魔力が爆散する。 | ||
君は下がることなくカードを構え、戦いに備えた! | ||
(戦闘終了後) | ||
渾身の魔力を叩き込むと、暗黒の何かを後退させることができた。 | ||
もう一撃──いや、君の魔力は、既に限界を迎えつつある。 | ||
ふっ、さすがは魔法、といったところか。 | ||
ディートリヒが感嘆の声を上げる。 | ||
それは君が初めて見た、彼の感情だったのかもしれない。 | ||
君という足止めが機能したことに、ほんの少し高揚した……だけ。 | ||
あるいは君が倒れても、第二、第三の手があったのかもしれない。 | ||
──否、あった。 | ||
君がいなくても別の手段をとっていたに違いない、という確信が君にはあった。 | ||
まだこの肉体は、完全ではない。 | ||
我が身、我が心は満たされないままだ。 | ||
それだけを言い残し、漆黒が姿を消した。 | ||
いったいアレは何だったのか、君にはわからない。 | ||
ふふ……くっ、ふふ、はははっ! そうか、逃げるか、我が敵よ。 | ||
愉快げに、ディートリヒが感情を露わにする。 | ||
炙り出してやった。"これでいい"。これでいいのだ、〈イグノビリウム〉。 | ||
いったいどういうこと──と君が尋ねる。 | ||
戦艦に乗ってここから離れようとするはずです。しかし、元帥閣下はそのときのため…… | ||
3軍を残し自らがこの要塞に乗り込みました。貴官の船を使うことも想定済みでした。 | ||
また、そんな大切なことを言ってくれなかったのか、とため息が出る。 | ||
血肉がほしいのなら、くれてやる。〈イグノビリウム〉の肉をな。 |
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