ヴァルザイン

その異界の人々は、強い魔力を身に秘めながらも、
それを自在に操ることができなかった。
ゆえに、天を舞う聖竜が彼らを守護していたと言われている。

しかし、人々の持つ魔力を狙う悪鬼どもが、
計略を以って聖竜の命を奪い去り――

人々は、悪鬼の群れの襲撃に為すすべもなく命と魔力を奪われていった。


「我らの願い、我らの祈り……命とともに、おまえに託す……」


光の差さない深き森――その奥で、老人は竜に語りかける。

大木のごとき巨体を鋼の鱗で覆い尽くした機械の竜。
老人はその首元に立ち、動かぬ竜に吼えていた。

「おまえは機械だ。人の手で造られたドラゴンだ。
　だが――おまえの血は我らの魔力。おまえの心は我らの魂！
　希望の未来を守るため……我らの命、持ってゆけッ！！」

老人の姿がかすんでいく。
光の粒子……魔力そのものと化し、竜へと流れ込む。
刹那、竜の眼が冴え冴えたる光を放った。
数多の人々の命と魔力をエネルギー源とする内燃機関、ゼーレンレーベンの光――
今、機械竜ヴァルザインが起動した証であった。

（熱イ……！　無数ノ命ト魂ガ……我ガ内デ燃エテイル……！！）

産声たる咆哮を放ち――ヴァルザインは、飛んだ。

森の闇を切り裂き、流光を引きながら天を舞い――
悪鬼の群れが兵士たちに襲いかかる戦場へと、一気に馳せる。

カッと開かれた口腔から、高ぶる魔力が吐き出された。
凄まじい電撃の光閃が、地上の悪鬼どもを薙ぎ払い――吹き散らす！

兵士たちは、茫然と空を見上げた。
そして、見た。

鋼の翼を。
新たなる守護者を。
天を背負うかのごとく悠然と佇む機械竜――ヴァルザインの雄姿を。