ルフ

闇へ、闇へ。
この異界はあらゆるものが闇に落ちていく。
あらゆるものは、冷たく暗い、静寂の中へ。
星一つなく、月すらもなく、明けない夜がそこにはあった。

べっとりと貼り付くような漆黒の空には、黒い太陽が笑っている。
混沌色の世界で、人々は何かを探すように、地面を見ながら生きていた。

無論、墨染めの世界には何もない。
痩せた世界と同様に、人々はすでに生命を育むことを諦めていた。


「ひとつ聞く。答えて欲しい」


とある少年が、その生命を閉じようとしていた時である。
目を閉じ死を待つ彼は、温かい声に目を開いた。

彼はその時、本物の太陽を見た。
太陽は、少女の形をしていた。


「お前は生きたいか」


風のない闇に満ちた世界で、真っ白な髪が揺れる。

円形の道具を持った少女は、少年を太陽色の瞳で見つめると、
静かでやさしい、柔からかな声でそう聞いた。

少年は、すこしだけ考えたあと、うなずく。
その目にいっぱいの涙を浮かべ、力強く――力強く！


「ならば、理由はいらないな」


天へ、道具を持った腕を向け、少女は不敵にひとつ笑う。
道具はガシャンと小気味の良い音と共に割れ、それは彼女を取り囲んだ。

弓を引くように、彼女は魔力を集中する。
眩しく光る神罰の矢。


「下を見るな、空を見ろ。これからは、そこに私がいる」


神は心底怒っていた。人々を苦しめる闇の空に。


「私はこの世界に、星と、月と、太陽を取り戻しにきた」


渾天の神罰者　ルフ・ファルネーゼ。
そう呼ばれることになる彼女の最初の矢は、こうして放たれたのだった。


「闇よ、爆ぜろ」