ラブリーな歌姫
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白い煙を引きながら、空高く飛び上がって逃げたシャーリーを見上げて、
MIU☆MIUことミユキは悔しそうに指を鳴らした。
「あーもぅ、面白いネタ逃したぁ~!」
「お前な……」
完全にゴシップ狙いだったミユキを見て、
ヴォルフは呆れた様子で肩をすくめる。
(……そういえば、コイツとはあんまり話したことないわね)
心配そうにシャーリーの飛んでいった先を眺める彼の横顔を眺めながら、
ミユキは自分の唇を指で触る。
男子からも女子からもそこそこ人気のあるヴォルフの存在は認知していたものの、
こうして面と向かって話す機会はなかった。
「ねえ。ヴォルフってさぁ、好きな子いるの?」
「は?」
「だからぁ~、ラブな子いるのかなって聞いてるの」
「……そういう浮いた話は他でやれ」
ヴォルフは心底嫌そうな顔をして踵を返す。
だが、ミユキはサッとヴォルフの前に割り込んで、その退路を断った。
彼女の表情はイタズラ好きのそれに変わっている。
「ねえ、素直じゃない奴とこういう話するのって、すっごく楽しいの知ってた?」
「知らねえよ、それに俺は一切楽しくねえ」
「私が楽しかったらぁ~、い・い・の!」
その言葉と同時に、ミユキはヴォルフの腕に自分の腕を絡ませる。
次の瞬間、ヴォルフは熱いものでも触ったかのように飛び退いた。
「……やめろ」
だが、ミユキはやめない。
飛び退いたヴォルフに近づき、顔を覗きこんでくる。
「ははぁん、さてはヴォルフくんこういうの免疫ない?」
「うるせえ……!」
「聞かせてごらんなさいよぉヴォルフくぅん」
ヴォルフは、彼にとって最も腹の立つ絡み方をするミユキに、
コイツが男ならどれだけ楽だったかとイライラを募らせた。
だいたいこんなんだから女は嫌いなんだ、
もっとサッパリしている奴がいれば俺だって……
と彼は一瞬思い、その考えを振り払う。
「ねぇねぇねぇ、どうなのそこんとこ!」
とはいえとにかくしつこいミユキに、ついにヴォルフはこう言ってしまう。
「お前こそ彼氏の一人でもいねぇのかよ、あんだけファンが居るくせによ!」
そしてそれは、ミユキの最も触れてはいけないポイントだった。
ヴォルフの言葉に、ピタリと彼女は動きを止める。
「……い」
「は?」
「……いないわよ、悪い!?
というか今まで一度もそういうのないわよ馬鹿! 悪い!?」
「ばっ、馬鹿とはなんだテメェ!
だいたいお前からこういう話してきたんだろうが!」
「うるさいうるさい! 彼女いない奴に偉そうに言われたくないわよ馬鹿!」
涙目で抗議するミユキ、イライラが頂点に達するヴォルフ。
二人の声は段々大きくなり、そしてそれに誘われ集まりだす野次馬……
当然それにミユキとヴォルフは気づかない。
「だから何様なんだよ馬鹿馬鹿言いやがって!」
「黙んなさいよもー! そもそもアンタ動物に懐かれててズルいのよ!」
「そこは関係ねーだろ!」
まるで痴話喧嘩のようなそのやり取りは、その後1時間ほど続いた。
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