ディートリヒ編
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ディートリヒ・ベルクの過去を知る者は、ドルキマスにおいてひとりも存在しない。 片腕と呼ばれるローヴィですら、それについて聞いたことがなかった。 ただローヴィ・フロイセが着任した頃には、既にドルキマス国軍は彼の手中にあった。 凄まじい数の戦艦と兵を前に、昏く笑っていた姿を、ローヴィは覚えている。 ディートリヒが国に謀反を起こし、王を失脚させたというのは、国外にも知れ渡っていた。 | ||
ローヴィ。 | ||
現在、〈イグノビリウム〉は大陸北部より、依然南下を続けております。 | ||
その侵略速度は、言うまでもありませんが、我々が持つ軍の10倍程度。 | ||
間もなく山脈手前に到達するものと思われます。 | ||
前王が造り上げた要塞。あれを放棄しろ。 | ||
しかし、あれは……。 | ||
必要になったら取り返す。今は使わん。あれを餌にして時間を稼いでおけ。 | ||
ディートリヒは躊躇することなく、拠点を放棄する。 | ||
今日、明日のうちに来るわけではないのなら、私は少し外す。 | ||
どちらへ? | ||
〈ウォラレアル〉というドラゴンを使う者がいるのだが。 | ||
アレを利用しようと思う。 | ||
…………。 | ||
大陸の並びから見れば、恐らく〈イグノビリウム〉は〈ウォラレアル〉の地を狙う。 | ||
ディートリヒは、彼らを救うのではなく、利用すると言った。 | ||
隣国の王を使い、〈ウォラレアル〉の頭を呼び出す。 | ||
そうすればちょうどいい頃合いだ、とディートリヒは言う。 | ||
それが何を示すのか、ローヴィにはわからない。 | ||
わからないが、聞くことはなかった。 | ||
必要とも思えなかったからだ。 | ||
後のことは任せるが、かの魔道艇──あれの確認も済ませておけ。 | ||
使い物になるとは思えませんが……。 | ||
私もそう思う。しかし、何に使えるかわからない。 | ||
見つけたものを調べもせず、捨てることはないだろう。 | ||
わかりました──。 | ||
ローヴィは礼をして、ディートリヒのもとを離れていく。 | ||
…………。 | ||
戦争が始まることを、ディートリヒは理解していた。 | ||
そのために打てる手は打っておこう、という算段だろう。 | ||
何も策はひとつではない。 | ||
あるいは彼は、それそのものを楽しんでいるのかもしれない。 |
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