テオドール
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№ | 1699 | 1700 | 1701 |
名 | (S)仕える者 テオドール | (S)静かなる水面 テオドール | (S+)護り手の系譜 テオドール |
AS | 氷刃の猛襲 | 氷刃の猛襲 | 氷刃の猛襲 |
SS | 凍てつく微笑み | 凍てつく微笑み | 魂を凍らせる麗笑 |
№ | 1702 | 4141 | |
名 | (SS)皇王の護り手 テオドール・ザザ | (L)託翼の守護聖剣 テオドール・ザザ | |
AS | 絶対零度の猛攻 | 殲滅せしめる永遠氷界 | |
SS | 魂を凍らせる麗笑 | 世界を静止させる綺笑 |
シャロン&テオドール
№ | 2724 | 4743 |
名 | (SS)禁戒の聖域 シャロン&テオドール | (L)聖域に燈る光 シャロン&テオドール |
AS | 空を染める光 | 輝きは蒼空を照らす |
SS | 世界への羨望 | 求め望むことで生成する世界 |
共通情報
名前 | テオドール・ザザ | CV | 石田 彰 | 種族 | 天使 |
登場 | その光は淡く碧く | ||||
世界 | 皇界 | ||||
所属 | 皇帝の臣下-「皇の剣」 | ||||
特徴ワード | 至誠なる側人 | ||||
関連キャラ | シャロン | ||||
セリフ1 | 「全てを貴女に捧げよう――死の渇きがこの身を奪う、その日まで」 | ||||
セリフ2 | 「良いですか、私と貴女では、住む世界が違うのです。」 | ||||
セリフ3 | 「何よりも嬉しい、プレゼントですよ」 | ||||
補足情報 | 皇帝の相談役、警護役として側に使える「皇の剣」。 生まれながらに「皇の剣」としての宿命を背負い、皇宮に仕えてきた者の一人。 | ||||
(※2014ねこまつりGP人気投票 コメント) | |||||
[投票前] | 捧げよう。――この心を、貴女に。 | ||||
[発表後] | 私には勿体無い席次でございます。……ところで、シャロン様はいずこに? |
パーソナルストーリー
バックストーリー
――皇よ。
幼きその手に託されたのは、幾億の民へとかざされた生の灯火。
――我が主よ。
未だ満足に文字すら読めぬその身には、
この世の全てが託されているのです――
ある時には皇の相談役として、
ある時には戦地を駆ける刃として、
ある時には身を守る盾として。
歴代の皇たちの側には必ず「ザザ」の名を持つ臣下――
「皇の剣」が控え、共に皇界を治めてきた。
テオドールもまた、生まれながらに「皇の剣」としての宿命を背負い、
皇宮に仕えてきた者の一人。
文武に類稀なる才を発揮、
整った容姿と万人を惹きつけるカリスマを持ち、
次代の「剣」として大きく期待されていた。
やがて先代の「剣」が病に伏し、後を継いだ彼が仕えることとなったのは
――年端も行かぬ幼き女皇。
燻る動乱の熾、陰謀渦巻く宮廷で、
テオドールの主君はただ、無力。
彼を「テオ」と呼び慕い、無邪気に笑う少女の傍らで。
テオドールは密かに誓うのだった。
「全てを貴女に捧げよう――死の渇きがこの身を奪う、その日まで」
※話の最初に戻る
バックストーリー
柔らかな日差しが降り注ぐ野には、一面の美しい花が咲いていた。
シャロン・イェルグは野に咲いた花へそっと手を伸ばし、
少しの間ためらった後、困った顔をして手を引っ込めた。
「……テオ」
助けを求める表情で見上げられ、テオドール・ザザは微笑みを返す。
そのまま優しい手つきで花を摘むと、彼は何も言わず
シャロンの手元へとそれを運んだ。
「ありがとう、テオ」
まるで不安がほどけていくかのように、シャロンは言いながら柔らかくはにかむ。
対し、テオドールは返事の代わりに再び微笑みを浮かべた。
彼の腕の中に収まるほど小さなシャロンは、
皇界という名の異界に於いては頂点の存在である。
しかし、あまりに幼いうちに玉座へ担ぎ上げられた彼女は、
第三者の評価をして「据え物」--
つまりお飾りとしての価値しかないと目されていた。
つい、先日までは。
(……シャロン様は、変わられた)
シャロンを守るべき「皇の剣」であるテオドールは、改めてそう思う。
皇座を継承した頃のシャロンは役割を果たすためだけの人形のようだった。
自我は薄く、これといった欲求も無く、
放っておけば陽の光に溶けてしまうのではないかと思うほどに
儚い、無気力で無感情な少女--
青い空を仰ぎながら、テオドールは出会った頃のシャロンを思い出す。
「ねえテオ、あの丘の上に行きたいわ」
日傘を透かした光に照らされる横顔には、その頃の面影は既に無い。
穏やかな性格はそのままであるが、彼女の表情は近頃ころころとよく変わる。
テオドールを困らせるようなワガママも、
少し遠慮気味ではあるが、時折口にするようになった。
皇の剣として滅私を誓うテオドールであるが、彼はその変化を心から嬉しく思う。
「……ねえ、テオ」
ゆっくりと花の咲き乱れる丘を、テオドールに抱えられ登りながら、
シャロンは彼を見ずにつぶやいた。テオドールは返事をしない。
「私ね、あなたが居てくれて、本当に良かったと思う」
「……シャロン様」
「ただのお飾りだった私に、テオはいろんなことを教えてくれたよね」
そこまで言うと、シャロンは日傘をたたみ、降り注ぐ陽の光に目を細めた。
ふと、少し強い風が吹く。
テオドールはその風からシャロンを守るように、太陽に背を向けた。
「……まるで、テオは大きな空みたいね。
優しく、力強く、私をいつも見守ってくれる。
私の本当に欲しいものを、いつも何も言わずに与えてくれる」
逆光を背負うテオドールを見つめ、シャロンはそう言いながらはにかむ。
思いがけない言葉に、テオドールは胸を締め付けられるような感覚を覚えた。
「あのね、テオ。私はね……その……」
シャロンは胸につかえた気持ちを、どうにか言葉にしようとした。
だが彼女は、それをどういう言葉にして良いのかわからなかった。
不思議に思ったテオドールは足を止め、シャロンに向けてほんの少し首を傾げる。
「……!」
思いがけずテオドールと目が合い、シャロンは咄嗟に唇を噛んでうつむいた。
顔が熱い。
この気持ちを言葉にしてテオに伝えたい。
でも、どんな言葉を選べばいいのか、わからない。
「ええと……」
どう言えば、この気持ちがそのままテオに伝わるのだろう。
感謝でもなく、謝辞でもなく、もっともっと違う何か……
ああ、でも、早く言わないと、私の言葉をテオは待ってる。
だから、早く--。
「私はね、テオ。私は……!」
心を絞り出すように、シャロンは言葉を紡ごうとした。
だが、テオドールはそっと彼女の唇を人差し指で抑える。
「シャロン様。それ以上は、私には勿体無いお言葉でございます」
言いながら、テオドールはいつも通りに優しく微笑んだ。
シャロンは一瞬きょとんと驚いた表情をして、
それから一度目を伏せると、丘の向こうへと目を流す。
「……見て、テオ。綺麗な海」
「……ええ」
小高い丘の上、潮の香が混じるそよ風を受けて、二人は何も言わずに佇んだ。
水平線に混じる空と海を見つめて。
※話の最初に戻る
皇帝と剣
私が「皇の剣」として仕えることになったのは、幼い皇帝、シャロン・イェルグ様だった。 | ||
あなたが新しい”剣”? | ||
……はい。先の”剣”は任を解かれ、私がそのお役を拝命いたしました。 | ||
今日より、私が”剣”として陛下をお護り致します。何なりとお申し付け下さい。 | ||
……お名前は? | ||
テオドール……。テオドール・ザザと申します。 | ||
テオドール……。ならテオって呼んでもいい? | ||
テオ……でございますか? | ||
……だめ? | ||
いえ、ご随意にお呼びいただければ……。 | ||
よかった。じゃあ、テオに決まりね。 | ||
そう言って微笑む幼い皇帝の無邪気な顔が、私にはただ不憫に思えた。 | ||
この皇界に生きる全ての存在、全ての国を統べるには、彼女はあまりに幼く無力だ。 | ||
宮廷は、何もかもが用意されていながら、何も与えられることのない孤独な牢獄。 | ||
彼女にとって、「世界」は意識の内側にのみ存在する冷たい虚空に過ぎなかった。 | ||
だから私は、彼女へ全てを捧げることを決意した。 | ||
彼女の「世界」を無限に広げてあげたいと願った。 | ||
「皇の剣」となった私は、シャロン様と行動を共にするようになった。 | ||
その日々の中で、私たちは互いに信頼と忠誠を深めていった。 | ||
それはそんなある日、シャロン様と野原へでかけた時のこと――。 | ||
柔らかな日差しが降り注ぐ野には一面、美しい花が咲いていた。 | ||
シャロン様は野に咲いた花へそっと手を伸ばしたまま、困った顔をして私を見上げる。 | ||
……テオ。 | ||
シャロン様にとって宮殿の外に出かけることは、未開の地へ投げ出されるにも等しい。 | ||
花一輪、摘むことにさえ躊躇するほどだった。 | ||
私は彼女に微笑んで、そっとその花を摘む。 | ||
ありがとう、テオ。 | ||
不安がほどけていくように、シャロン様は柔らかくはにかむ。 | ||
……シャロン様は、変わられた。 | ||
出会った頃のシャロン様は、役割を果たすためだけの人形のようだった。 | ||
自我は薄く、欲求も無く、放っておけば陽の光に溶けてしまいそうなほど儚い少女……。 | ||
青い空を仰ぎながら、私は出会った頃のそんなシャロン様を思い出す。 | ||
ねえテオ、あの丘の上に行きたいわ。 | ||
しかし、日傘を透かした光に照らされる横顔には、その頃の面影は既に無い。 | ||
穏やかな性格はそのままであるが、彼女の表情はころころとよく変わるようになった。 | ||
私を困らせるようなワガママも、時折口にするほどだ。 | ||
皇の剣として忠誠を誓っているものの、そういった変化は心から嬉しかった。 | ||
……ねえ、テオ。 | ||
ゆっくりと花の咲き乱れる丘を、私に抱えられ登りながら、シャロン様はつぶやいた。 | ||
わたしね、あなたが居てくれて、本当に良かったと思う。 | ||
ただのお飾りだったわたしに、テオはいろんなことを教えてくれた。 | ||
そこまで言うと、シャロン様は降り注ぐ陽の光に目を細めた。 | ||
ふと、少し強い風が吹く。 | ||
私はその風からシャロン様を守るように、太陽に背を向けた。 | ||
……まるで、テオは大きな空みたいね。優しく、力強く、わたしをいつも見守ってくれる。 | ||
わたしの本当に欲しいものを、いつも何も言わずに与えてくれる。 | ||
思いがけない言葉に、私は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。 | ||
あのね、テオ。わたしはね……その……。 | ||
シャロン様は胸につかえた気持ちを、どうにか言葉にしようとしている。 | ||
わたしはね、テオ。わたしは……! | ||
心を絞り出すように、シャロン様は言葉を紡ごうとした。 | ||
しかし、その先の言葉を聞いてはいけない。 | ||
そう思い、私はそっと彼女の唇を人差し指で抑えた。 | ||
シャロン様。それ以上は、私には勿体無いお言葉でございます。 | ||
シャロン様は、きょとんと驚いた表情をしてから、丘の向こうへと目を流す。 | ||
……見て、テオ。綺麗な海。 | ||
……ええ。 | ||
小高い丘の上、潮の香が混じるそよ風を受けて、私たちは何も言わずに佇んだ。 | ||
水平線に混じる空と海を見つめて。 |
※話の最初に戻る
私が「皇の剣」としてシャロン様へ仕える様になってから幾つもの季節が過ぎ去った。 | ||
テオ、テオ? | ||
どういたしました? シャロン様? | ||
あのね、テオ。今晩の舞踏会なんだけど……。やっぱり行かないといけない? | ||
幼くして皇帝の座についてから時は流れ、シャロン様も舞踏会を開くお年頃となった。 | ||
その晩は彼女にとって初めての舞踏会。 | ||
そこでのお披露目を済ませれば、シャロン様はひとりの成人として認められる。 | ||
宮殿の檻に囲われることなく、自身の意志で他の王族や貴族と交流することができるようになる。 | ||
しかし、シャロン様はどうも気が進まない様子だった。 | ||
踊りはお嫌いですか? | ||
ううん。踊るのは好きよ。でもね……。ああいうのってほら、たくさん人が来るんでしょう? | ||
はい。国を超えて多くの王族、貴族が訪れます。 | ||
みな、シャロン様にお目にかかりたい、と願っているのです。 | ||
違うわよ、テオ……。みんなが会いたいのはわたしではないわ。皇帝でしょ……。 | ||
そう言って、シャロン様は少しだけうつむいた。 | ||
……それは、そうかもしれません。 | ||
それがシャロン様だろうが、誰だろうが、彼らは皇帝にさえ会えれば満足するでしょうね。 | ||
テオのいじわる……。そこまではっきりいうことないじゃない! | ||
でもそれは、致し方のないことです。彼らはシャロン様のお人柄を知らないのですから。 | ||
そして、シャロン様もまた、彼らのことを何ひとつ知らない……。 | ||
それはそうかも知れないけど……。 | ||
誰かと知り合うということは、世界をひとつ知るのと同じだけの価値がございます。 | ||
私はシャロン様を知ったことで、世界が大きく広がりました。 | ||
わたしだって、テオのおかげで……。 | ||
今日の舞踏会にだって、シャロン様の世界を広げてくれる誰かがいるかもしれませんよ。 | ||
わたしは、テオさえ近くにいてくれればそれでいいのにな……。 | ||
なにも聞こえませんよ。 | ||
もういい……。少し、ひとりで歩いてきます。 | ||
そういって、彼女は宮殿の外へと出て行った。 | ||
しかし、日が傾き始めても、シャロン様は宮殿に戻ってはこなかった。 | ||
そして私は、シャロン様を探しにいくことにした。 | ||
私が向かった先は「霊雪の洞窟」。 | ||
いつだったか、以前にもシャロン様を探してここへ来たことがあった。 | ||
あれは確か聖夜の晩――。 | ||
私が彼女を見つけたとき、シャロン様は泥だらけになって土を掘り返していた……。 | ||
んしょ……んしょ……。あ、あった! | ||
シャロン様、ここにいらしたのですか? | ||
テオ、あの……私ね、ちょっと用事があって…… | ||
それは私に申し付けて頂ければ済む話です。 | ||
でも……これは私がやらないと、駄目なの……。 | ||
泥にまみれることがですか? | ||
私がといつめると、彼女は隠していた霊雪の結晶を取り出す。 | ||
これは……? | ||
シャロン様は、そのありふれた安価な宝石を、泥だらけになって掘り返していたのだ。 | ||
今日は、聖夜なんでしょう? 下界ではこの宝石を、大切な人に贈る日だって聞いたから…… | ||
シャロン様が……私に? | ||
ええ、だってテオはわたしの大切な人だから……。 | ||
あの日、シャロン様から頂いた霊雪の結晶は、今でも私の部屋に飾られている。 | ||
そんなことを思い出しながら洞窟を進んだ先に、シャロン様の姿があった。 | ||
シャロン様……やはりここにおられたのですね? | ||
……やっぱりわたしは、テオからは隠れられないのね? | ||
そういえば、あの聖夜の頃からだった。 | ||
私が彼女のいる場所や彼女に迫る危機を感じ取れるようになったのは……。 | ||
それはまるで、私とシャロン様の心がどこかでつながっているような感覚だ。 | ||
テオ……。わたし、ごめんなさい……。 | ||
さあ、戻りましょう。 | ||
……本当に行かないとダメ? | ||
……シャロン様。 | ||
テオと一緒ならいいわ。ね? いいでしょ? | ||
お聞き分け下さい。 | ||
私はシャロン様の剣でございます。 | ||
そうよ。テオはわたしを守る剣なんだから、ちゃんとわたしを守ってくれないと。 | ||
舞踏会に剣は必要ありませんよ。私とともに宮殿へ戻りましょう……。 | ||
……ねえ。覚えてる? わたし、ここでテオに霊雪の結晶をあげたことがあったでしょ? | ||
さあ、どうでしょう? おそれながらあまり記憶にございませんが……。 | ||
……うそよ。わたし知ってますからね。テオが毎日あの結晶を磨いているの。 | ||
……なっ! 確かにたまに眺めることはありますが、毎日磨いてなど……。 | ||
ふふふっ。 | ||
慌てる私の顔をひとしきり笑うと、シャロン様の欲求は満たされたようだった。 | ||
皇帝陛下、どうか、宮殿へお戻りください。まもなく舞踏会が始まります。 | ||
そういって、私はいつもよりいくぶん大げさに頭を下げた。 | ||
分かりました。それでは戻って支度をいたしましょう……。 |
※話の最初に戻る
舞踏会が終わり、シャロン様は私の元へとやって来た。 | ||
それで、いかがでしたか? 初めての舞踏会は? | ||
……うん。 | ||
シャロン様はそう言って俯いた。 | ||
……ごめんね、テオ。わたし、舞踏会を抜けだしちゃった。 | ||
まったく悪いお人だ……。もっとご自分のお立場というものを……。 | ||
わたしだってそれくらい、わかっているつもりでいたわ。 | ||
我慢だってしたつもりよ……。 | ||
……でもね、舞踏会で、色んな人と言葉をかわしていくうちに、 | ||
自分がどんどん空っぽになっていくような気がしたの……。 | ||
……空っぽに? | ||
テオは、わたしを変えてくれた。いろんな世界を見せてくれた―― | ||
無色で空虚で空っぽな、そんなわたしの世界を、いろんな色に染めてくれた。 | ||
それはきっと、テオがわたしのことを本当によく知ってくれて、思ってくれているからだと思う。 | ||
勿体無いお言葉です。 | ||
でも、あの人たちは違う。 | ||
……気持ちのない言葉を重ねたところで、その人を知ることはできないし、世界は広がらない。 | ||
シャロン様はそこまで話して一つ大きなため息をついた。 | ||
……つまりそういうことだと思う。 | ||
それで「ああ、結局わたしの世界はこの宮殿から広がることはないんだ」って思ったの。 | ||
やっぱり苦手だな……ああいう人がたくさんいる場所って……。 | ||
初めてのことですから、戸惑われただけかとおもいますよ。 | ||
……そういうものなのかな? | ||
そういうものです。次はきっともう少し楽しくなりますよ。少しずつ、慣れていけばよいのです。 | ||
そんな風にシャロン様を励ますと―― | ||
慣れる? わたしはね、テオ。絶対に慣れることのない人だっていると思うわ! | ||
と、彼女は不意に語気を強めた。 | ||
どうしたのですか? 私が何か失礼なことを申しあげたでしょうか? | ||
ううん……テオじゃないの。あの人にはきっと慣れないだろうな……って思いだしちゃって。 | ||
あの人……? それは、どのような方なのですか? | ||
……なんていったらいいのかしら? とにかく凄く失礼な人だったわ。 | ||
だって、突然わたしの手をとって「どこか遠くに行かないか?」なんて言い出すのよ。 | ||
皇帝陛下にそんなことを? | ||
ううん。わたしが皇帝だって知らないで話しかけてきたの。 | ||
それはずいぶんと世間知らずな王子様ですね。 | ||
ちがうのよ、王子様でもないの。どこかの貴族の従者だといっていたわ。 | ||
王族でも貴族でもない、ただの従者がシャロン様と? | ||
舞踏会に従者の出席が許されるはずはない。 | ||
私は戸惑いながらシャロン様に訊ねる。 | ||
もしやシャロン様、舞踏会を抜けだした後に、その従者に声をかけられたのですか? | ||
ええ、そうよ。南の森のあたりで。 | ||
なんということを……。シャロン様、夜の森をおひとりで歩くなんて―― | ||
テオ! お小言だったら後で聞くわ。今は私の話を聞いて! | ||
いつになく感情を露わにし、シャロン様は続ける。 | ||
その方ったら本当にひどいの! | ||
わたしは皇帝だからあなたと遠くに行けないわっていうと、 | ||
へー、皇帝ってのは可哀想ですね。ひとりじゃどこにも行けないんだ、なんて言うのよ。 | ||
……それはひどい。分をわきまえぬにも程がある、というものでございます。 | ||
やっぱりテオもそう思うでしょ? わたしだって怒ったわ。謝らないとゆるさないわよって! | ||
シャロン様が、お怒りになられたのですか? | ||
そうよ! 当たり前じゃない! | ||
悔しかったら、ひとりで僕に会いに来てみたら? そしたら謝ってやるよ―― | ||
なんて言われたのよ! | ||
シャロン様がここまで感情を露わにすることなど、これまであっただろうか? | ||
よくも悪くも、シャロン様は、またひとつ世界をひろげたようだ。 | ||
それで、その方はどちらに? | ||
うーん。なんかね、これがヒントだって。見たことのない紋章なんだけど……。 | ||
そう言って、紋章の入ったブローチを取り出した。 | ||
これは……。 | ||
その紋章に、私は見覚えがあった。 | ||
では、その彼に謝ってもらいに行きましょうか? | ||
えっ? テオはその人がどの国の従者かわかるの? | ||
はい。どういたしますか、シャロン様? 無礼物の戯れ言に付き合う必要もありませんが……。 | ||
もちろん、会いに行くわよ。でも……テオはいいの? | ||
はい。シャロン様の世界が広がるかもしれませんからね。 | ||
まもなくでございます。ほら、あそこにお城が見えてまいりました。 | ||
きれい……。こんなところにお城があるなんて知らなかったわ。 | ||
城主が少々変わっている、という噂でございます。 | ||
ねえ、テオ。わたしが突然現れたら、きっと驚くでしょうね? あの従者。 | ||
ええ、きっと驚かれますよ。 | ||
ふふ……楽しみだわ。 | ||
私は城の衛兵に話をつけ、シャロン様とともに城内へと入る。 | ||
気づけば、シャロン様の怒りはすっかり収まっているようだった。 | ||
シャロン様、とても良くお似合いですよ。そのお花。 | ||
と、私はシャロン様の髪に飾られた花をみる。 | ||
その花は、宮殿を出るときから彼女の髪に飾られていた。 | ||
ありがとう、テオ。久しぶりのお出かけだから、少し浮かれているのかもしれないわ。 | ||
……そうだ。テオのこともちゃんと紹介しないといけないわね。 | ||
いえ、私はご一緒いたしませんよ。 | ||
どうして? | ||
友と会うのに剣は必要ないでしょう? | ||
友? どうして私と彼が友だちなの? | ||
なんとなく、でございます。 | ||
その者について語られる様子が、まるで友を語るようでしたので……。 | ||
どうして? 私はちっともあの人のことをいい人だと思っていないわ。 | ||
友だちってすごく仲の良い人のことでしょ? | ||
友とは、気兼ねなく自分の気持ちをぶつけることのできる相手なのです。 | ||
ですから当然、喧嘩をすることもある。 | ||
それなら、友と敵の違いはなに? | ||
喧嘩をしたあとに、もう一度会いたい、と思うのが友です。 | ||
そうなの? わたしにはわからないわ。友だちなんていたことがないもの……。 | ||
でも友だちなら、なおさらテオを紹介したいな……わたしの大切な人だから。 | ||
と、私たちは大きな扉の前にたどりついた。 | ||
さあ、到着しました。”無礼者”の部屋はこちらでございます。 | ||
私の”無礼者”という言葉に、傍らの衛兵が顔色をかえた。 | ||
……ねえ、テオ。従者の部屋にしてはかなり大きくないかしら? | ||
そうですね。少し大きいかもしれません。 | ||
……もしかして、あの従者が……城主なの? | ||
では、”友人”とのよきひとときを……。 | ||
……テオ、やっぱり一緒に来てくれない? | ||
でも私と一緒では、”ひとり”でここに来たことにはなりませんよ? | ||
それはそうだけど……。 | ||
不安げに私を見つめるシャロン様をみて、 | ||
私は、手のひらに宿した冷気で一輪の花をつくり、それをシャロン様の髪に添えた。 | ||
ご安心ください。どこにおられましても、私はあなたをお護りいたします。 | ||
……ありがとう、テオ。 | ||
そう言って、シャロン様は扉を開いた。 | ||
新しい世界へと繋がる扉を――。 | ||
………… | ||
…… |
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