サーヤ

 
最終更新日時:
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(A)初夏の金魚師 サーヤ(A)仲夏の金魚師 サーヤ(A+)晩夏の金魚師 サーヤ
AS爽やかな薫り涼風の笑み涼風の笑み
SS水遊び水遊び金魚との戯れ
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(S)風水金魚師 サーヤ・スズカゼ(SS)九夏三伏の金魚師 サーヤ・スズカゼ(L)金魚を眺む夏の涼 サーヤ・スズカゼ
AS華夏の想い出去るものは日々に疎しらんちゅうの舞う茜空
SS金魚との戯れからくれなゐの水くぐり夏の終わりの蝉時雨
登場時期:2013/08/16 350万DL記念 限定ガチャ 2014/09/16 SS化 2015/8/31 L化 

バレンタインver

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(S)約束の日の金魚師 サーヤ・スズカゼ(SS)甘き想い贈る サーヤ・スズカゼ(L)淡く甘い想い出 サーヤ・スズカゼ
AS約束の日の思い出水面に映す想い心に広がる想いの波紋
SS金魚たちの悪戯たゆたう彩尾と恋花火夏の夜空の恋色花火
登場時期:2014/02/01 2014バレンタイン期間 限定ガチャ 2015/01/31 SS化 2016/02/19 L化

3周年記念ver

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(SS)祭りで出会った金魚師 サーヤ(SS+)本当は遊びたい サーヤ(L)約束と結ばれた糸 サーヤ・スズカゼ
AS丹精込めた金魚舞踊特別な日を祝う金魚神楽特別な日を祝う金魚神楽
SS繋がれた二人の絆繋がれた二人の絆再会を誓い合った祭りのあと
登場時期:2016/02/29 3周年記念 限定ガチャ

共通情報

名前サーヤ・スズカゼCV植田 佳奈種族術士
登場-
世界和ノ国
所属金魚師
特徴ワード和の夏の風雅
関連キャラサクラ
セリフ1「なんや、キセキみたいやわぁ」
セリフ2「……あんたの名前、一応、覚えといたるわ」
セリフ3「あんじょうきばりや~」
補足情報着物風衣装を来た魚使いの女の子。
傘の下は水の世界が展開されており、
金魚がひらひらと彼女の周りを舞う。

パーソナルストーリー


バックストーリー


夏の夜空を彩る大輪の花。

四季ある異界”和ノ国”に今年もこの日がやってきた。
国中の花火師達が己の腕を磨き、心血を注いだ一品で競い合う「大花火大会」だ。

国宝の花火師であり親友のサクラがこの日の為に用意した花火。
その出番を、縁側に座ってサーヤは待ちわびる。

傍らに居るのは、彼女が操る水の流れに沿って、
空中を自由に泳ぐ”使役された金魚”たち。
新調した着物を見にまとい、彼女は金魚たちに問いかける。

「この日のためにこしらえた一張羅の着物」
「どや? はんなりしたええ色合いの着物やねぇ」




夏を彩る非日常は露と消え、はにかむ少女の火照った頬を秋の予感が優しく撫でる。
時はめぐり、異界「和の国」に葉の色づく季節がやってくる。

祭りの余韻冷めやらぬ夜、手繋ぎ畦道を歩く二つの影。
水気を含んだ大気をかきわけ、豊かに実った稲穂の影から虫の音が響く。
新月の空に輝く幾億の星々、見上げた少女の横顔はどこか儚く……

「短い付き合いやったけど……あんたの名前、一応、覚えといたるわ」

いたずらっぽい笑顔の影で、小さなその手に力がこもる。
色とりどりの金魚たちが、もの言いたげに宙を舞う。
ぎゅっと握られた彼女の気持ちに想いが弾け、君の迷いは決意に変わる。

※話の最初に戻る

バックストーリー(バレンタイン)

遠くへ消えた彼女の影、指切り交わした再開の約束。
また、いっしょに花火を見よう。




――夏が過ぎ、秋が駆け抜け、白の季節がやってきた。
空を覆う灰色の雲、吹き荒れる山風、やむことなく降り積もる雪。

厳しい冬を楽しむために、異界「和ノ国」で催される「雪上の大花火大会」。
世界中から集まった観客の前で、花火師たちが夜空に色とりどりの華を咲かせる。

夏のそれとは趣の異なる、幻想的な空の芸術。
光が舞い散る細雪を照らし、世界は神秘で飾られる。

息をのむような光景の中、君のその目は彼女を探す。
けれど、あまりの人出に身動きもとれず……やがて最後の演目を迎えてしまう。

いくつものハートが浮かんでは消える、可愛らしい大作。
観客が一際わき立ち、誰もが空に目を奪われたその瞬間――

視界を遮る、鮮やかな傘。

「約束、覚えててくれたんや……うれしいわぁ」

背伸びし傘さす、記憶の少女。
見上げる微笑みが思っていたよりずっと大人びていて、君はなぜだか目線をそらす。

澄んだ瞳と栗色の髪、雪降る宙を舞う色とりどりの金魚たち。
夏の淡い想い出が、胸を、身体を駆け巡る。
響く花火の咲く音も、祭りの人々の歓声も……もう、ここまでは届かない。




あの夏よりも、ちょっぴり甘い二人の予感。
それは、ほんの少しの間だけ。

※話の最初に戻る

①金魚と舞う少女

和ノ国は、四季の彩りがはっきりしている。
夏は、強い日差しが田畑を照らしつけるし、冬には厳しい寒さが訪れる。
僕の住む村でもようやく冷たい冬が去り、雪も全部溶けて、青い新芽が、あちこちから顔を出し始めた。


この季節になると僕の村では、今年の豊作を願う、年に一度の村祭りが開かれる。

普段は静かな僕の村は、このお祭りの日だけ、とても賑やかになる。
神社の周囲に夜店が並んで、旅の曲芸師や演芸師たち、そして花火職人などが沢山村にやってくる。
僕が出会ったあの子も、村を訪れた旅芸人のひとりだった。

あいたたたっ。あー、やってしもうた……。ついてへんわぁ。

僕の目の前で、着物姿の女の子が地面にうずくまっている。
彼女は、足を押さえて痛そうに顔をしかめていた。

はあ、これから舞台に上がるいうのに、どないしよ……。

大人たちは、彼女に目もくれない。
みんな珍しい物を売っている露店や、舞台上で派手な芸を披露する曲芸師に夢中だ。
僕は、女の子に駆け寄って大丈夫? と声をかけた。


心配せんといて。草履の鼻緒が切れただけやから。まあ、ボロかったからなぁ。しゃあないわ。

女の子は、壊れた草履を顔の前でぶら下げて、照れたように笑う。
でも、そのままじゃどこにも行けないだろう。僕は彼女に履き物を貸してあげた。
おおきに。あんたええ人やね? はじめておうたうちに、こんな親切にしてくれるやなんてな。
困った時はお互い様だよ、と僕は答える。
うちはサーヤ・スズカゼ。旅の金魚師や。あんたは、この村の子なん?
金魚師? そんな職業は聞いたことがない。
僕が首を傾げていると、サーヤは口元に手を当てて静かに笑う。
そうやな。普通の人は、金魚師って言われてもぴんとこんわな。
これからうちが神社の境内で芸をするから、見ていったらええ。
サーヤは、しゃべり方に訛りがあるから、きっと遠くの国から来たんだろうってことは、なんとなくわかった。
でも、それ以外は、どこにでもいる小さな女の子に見えた。
そのサーヤが、今から境内にある舞台に立って、芸を披露すると言う。
本当に大丈夫だろうか?
下手なことをすると、酔っ払った大人たちから、容赦ないヤジを浴びせられる。
興味よりも、心配の方が先に立った。


神社の境内には、祭りのために特別に作られた舞台がある。
サーヤは、その舞台へ誰も伴わずにひとりで堂々と立った。
「おいおい、どこの迷子だよ!? 子どもが立つ場所じゃねえぞ!」
大人たちのヤジが飛ぶ。予想通りの反応だ。
舞台の上のサーヤが手に持った傘を開く。
すると、傘の内側から、まるで生き物のように動く水の塊が出現した。
その水の中で、色とりどりの金魚が泳いでいる。
「なんと見事な……っ!」
その美しさに、さっきヤジを飛ばしていた大人たちが、揃って感嘆の声を上げた。
魔法なのか、手品なのか僕にはわからないけど、これが金魚師の芸なんだ……。
なによりも……水をまといながら舞台上でひとり舞うサーヤの姿は、この世の物とは思えないほど美しい。


まるで、天女が舞っているみたいだった。



舞台が終わった後も、衝撃が抜けきらない。
僕は抜け殻のような状態で、誰もいない部隊を見つめ続けていた。
だけど、そんな僕の気持を踏みにじるように──
「さっきの金魚師、ありゃあなんだよ?」
その罵声は、サーヤが見せてくれた芸の余韻を打ち消してしまうほど薄汚かった。
「子どものお遊戯だろありゃ。踊りを見せるならもっと大人の女にして欲しいよな」
口さがなく毒づいているのは、村の不良たちだ。
彼らの話声は、サーヤの耳にも届いたはずだ。
彼らの言葉を聞いたら、一生懸命舞台を務めたサーヤがなんて思うか。
僕は、たまらずチンピラの前に飛び出していた。
「なんだこのガキ! 喧嘩売ってるのか!」
頭に血が昇った僕は、彼らに飛びかかっていた。
サーヤをバカにするようなことを言うこいつらが許せなかった。
でも僕は、喧嘩どころか……いままで人を殴ったことがない。


気がつくと、僕は地面に仰向けになって倒れていた。


もしもし。あんたさん、大丈夫ですかな?

え……? なんだこの生き物……。
き、金魚!? まさか、金魚が喋ってるの!?
おお、元気そうでなにより。なんにせよ、無事でよかったです。
え? わてですか? おっと、申し遅れました。わての名前は、ちゅうじ。
サーヤお嬢様に生み出された、しがねぇ金魚にございます。
喋る金魚に会ったのは、はじめてだ。驚きのあまり、なにも言葉が出てこない。


派手に殴られとったなー。あんたの顔、えらい腫れとるけど平気なん?

見とったけど……なんであんなチンピラみたいな人らと喧嘩したん?あんたってそんな人なんか?
それは、彼らが君のことを悪く言ったから……と、僕が言うとサーヤはなぜか怒り出した。
アホやな。そんなんほっときゃええのに。一々気にしてたら、人前で芸なんてでけへんわ。
それよりも、うちが怪我の手当してあげるわ。ちょっと動かんといてな。
顔の傷に、サーヤは水に濡らした綺麗な布を当ててくれる。
あいつっ! ……傷がしみる。


こら、動いたらあかん。治療できひんわ。

ほんまにアホやなぁ。こんな怪我までして……。
腫れた顔を冷たい手ぬぐいで軽く押さえながら、サーヤは優しく微笑んだ。
でも、うちのために喧嘩してくれたんは、嬉しかったわ。そんなアホな人、あんたがはじめてやもん。


サーヤに怪我の手当をしてもらう幸福な時間。
お嬢、包帯と軟膏を調達してきました。
ごくろうさん。そっちに置いとってくれる?
へい!
この謎の金魚さえいなきゃ、ふたりっきりだったのに、なんて贅沢なことは、いわないけど……。
段々腫れも引いてきたわ。こんぐらいの傷やったら跡は残らはずや。
治療が終わった頃には、もう帰らなきゃいけない時間になっていた。
あ、もうこんな時間や。うちも、宿に帰らんといかんわ。
サーヤは旅の芸人だ。
明日の祭りが終わったら、きっと次の町に行ってしまうんだ。
なにか、お礼がしたい。このまま、別れるのはいやだ。
どないしたん? まだどっか痛いんか?
あ、明日──。
僕は、勇気を振り絞って思っていることを声に出した。
──まだこの村にいるのなら、明日、僕と一緒にお祭り見て回らない?
え……。
サーヤは、一瞬固まってから、考える素振りを見せた。
ちょっと唐突過ぎたかな。僕の心臓は、これ以上ないくらい高鳴っている。
それって、甘い綿菓子とか食べるって言うことか?
色んな味のする蜜のかかったかき氷とか。よその国から来た「べびぃかすていら」ていうもんも食べるんか?
なんだか、さっきから食べ物のことばかりだけど、サーヤが望むなら……。
行く! 絶対に行く!
こちらが思っていた以上の勢いで、サーヤが乗っかかってきた。
たまには、お客さんになって祭りを楽しむのもありや。どこで待ち合わせる?
──い、いいの?
誘ったんは、そっちや。今さらやっぱやめたはないで。
それもそうだ。
──じゃあ行こう。
明日、楽しみやなぁ。うち、お祭りには仕事以外で行ったことないねん。
と、無邪気に話すサーヤを見て、勇気を振り絞って誘ってよかったと僕は感じた。
そして、その晩、僕はサーヤと別れた。
明日、同じ場所で会う約束をして──。


家に帰ると──。
僕が神社で年上のチンピラたちと喧嘩をしたことが、親や学校に伝わっていた。
すぐに学校の先生が飛んできて、こっぴどく叱られた。
「明日は、一日中家にいなさい。反省するまで、しばらく外出させません」
母さんから下った厳しい処罰。
でも、僕は素直に従うわけにはいかない。
明日は、サーヤと待ち合わせをしているんだ。
あんなに楽しみにしてくれてるサーヤとの約束は、絶対に破れない。
家の奥座敷に押し込められた僕は、親の目を盗んでやっとのことで抜け出した。
だけど──。
祭りは、もう終わっていた。
待ち合わせの場所には、サーヤはいなかった。
僕は、懸命にサーヤの名前を呼んだけど……返事はなかった。
きっと他の芸人さんたちと共に、次の村に向かったのだろう。
僕は、後悔と罪悪感にさいなまれて……。
みっともなく泣いてしまった。
サーヤと会えないのが悔しかった。
それ以上に、楽しみにしてくれたサーヤを裏切ってしまったのが、悔しくて情けなくて……。
僕は、誰もいない闇に向かって「ごめん」と謝ることしかできなかった。

※話の最初に戻る
②固い約束

サーヤとの約束を守れなくて泣き明かした夜から、一年が経過した。
今年の収穫を祈る祭りが、再び開催される。
学校の友達は、お祭りで浮かれているけど、僕の心は沈みきっていた。
祭りの人混みの中、僕は他のことに目もくれず、サーヤの姿だけを探していた。
約束を破ってしまった昨年のことを謝りたい。
サーヤは、許してくれないかもしれない。
だけど一言、ごめんと言わないことには、僕の気持ちが収まらない……。

おらおら、どけどけ。お嬢のお通りじゃい!

どこかで聞いたことのある声が聞こえて、僕は思わず足を止めた。


こらっ! カタギの人たちに迷惑かけたらいかんよ!

一年ぶりのサーヤの姿……。
思わず涙腺が緩みそうになった。
へい、すいません。お嬢。
僕は、一瞬躊躇してから、歩を進めた。
人混みをかき分けてサーヤに近づく。
なにかを期待していたわけじゃない。ただ一言……。
「約束を破ってごめん」と謝りたい。それだけだった。
──待って!
サーヤの背中に向かって僕は声をかけた。
サーヤは、振り返り……僕と目が合った。
……あ!
目が合ったのは一瞬。でも、サーヤはすぐに顔を逸らした。
冷たい態度。
それでも僕はめげずに、去年約束の時間に待ち合わせの場所に行けなかったことを謝罪する。
約束守らへん人……嫌いや。
しばらくの沈黙のあと、頭を下げ続けている僕に、サーヤはそう答えた。
怒られてもしかたない。僕は、それだけのことをしてしまったんだ。
でも、あんたが、去年のこと……うちのことを覚えててくれたんは、正直、嬉しい。
なんや? そんな顔せんといてや。うちみたいな旅の者のことなんて、普通覚えてへんで。
でも、あんたは覚えててくれた。そして、去年のこと謝ってくれた。それで十分や。
予想外に暖かい言葉を貰ってしまい、僕は言葉に詰まってしまった。
でも、お祭り一緒に回れんかったのは残念や。もし、悪いと思っとるんなら、これからでも去年の埋め合わせして欲しいわ。
も、もちろん……!
ほんまか? 期待してまうで? ええんか?
もう約束は破らない。絶対に守るよ──と、僕はその場でサーヤに約束した。


サーヤの舞台が終わったあと、僕はサーヤと一緒に夜店が並ぶ参道に向かった。
うち、一度でええから友達と一緒にこういうところ歩きたかってん。あ、あれ!
サーヤは、綿菓子屋を発見して、子どものように駆け寄っていく。
これ、いっぺん食べてみたかってん。なあ? これ、買わへん?
断る理由はない。
でも、ひとりで綿菓子を食べると虫歯になる。
だから、お互いにお小遣いを出し合って、一個の綿菓子を買った。
うわー。思ったとおり白くてふわふわや、こんなの見たことないわ。
じゃあ、食べるで……ドキドキや。……あむっ!
サーヤは、白い綿菓子を一口かじる。
そして、口の中で味わってから──。
んー甘い! 想像しとったんよりも、甘いんやな!?こんなん食べたことないわ!
無邪気にはしゃぐサーヤを見て、僕はようやく胸のつかえが取れた気がした。
次! 次、どこいく?
──そうだね、次は射的でもしようか?
射的!? あの、弓で的を狙い撃つあれやな? まかしといて、うちあれは得意な気するわ。やったことないけど……。
サーヤは祭りをお客として回るのは、本当に初めてのようだ。
今まで、友達と一緒に祭りに行ったりしなかったのだろうか?
僕は、なにげなく聞いてみた。
小さい頃は、友達おったよ。でも、うちが旅回りするようになってからは、一つのところに留まることがなくて……。
ずっとあちこちを回っていれば、同い年の友達なんて出来るわけない。
ひとりだけ、サクラちゃんっていう親友がおるんやけど、彼女も花火師として各地を回ってるんや。
お互い、仕事があるから一緒に遊ぶことなんて滅多にないなぁ。
友達と遊ぶことなくて、寂しくない? と僕は尋ねてみる。
サーヤは、少し言い淀んだけど……。
寂しくないな。うちは金魚師や。楽しんでくれるお客さんがおるなら、それでええんや。
それにお嬢には、わてら金魚がいます。
そやな……。でも、人間の友達も欲しいっちゃ欲しいなあ。
ご、ごもっともで。
夜空に花火が上がった。
あれが、今話したサクラちゃんが打ち上げた花火や。一緒に見ようや。
赤々と夜空を照らす打ち上げ花火。
他の祭りの参加者たちも、夜空を見上げていた。


綺麗やね……。サクラちゃんは、毎回いい仕事するわ。

僕は、花火よりも空を見上げるサーヤの横顔を見つめていた。
「ちょっとごめんなさい」
その時、通り過ぎる人に押されて、隣り合って並ぶ僕とサーヤは身体をぶつけ合った。
ご、ごめんな……急に押されてん。
──こ……こっちこそ。
サーヤと急に距離が近付いて……というか、近づき過ぎて、僕の心臓はこれ以上ないくらい高鳴っていた。
お互いの手が触れあう。
次の瞬間、どちらからともなく、互いの手を握り合っていた。
僕は、花火そっちのけでサーヤを見ていた。
こっちを振り返ったサーヤと目が合う。


あんたとこんな風に並んで花火を見るなんて……なんや、夢みたいやわ。

白い歯を見せたサーヤは、照れたように目を逸らした。
サーヤの頬が、若干赤くなっている。
それは、花火のせいか……それとも……。
──夢なら覚めないで欲しい。このままずっと、こうしていたい。
僕はサーヤにばかり気を取られ、花火にまったく集中できなかった。


打ち上げ花火が終わり、楽しい祭りも終わりを迎える。
神社の周辺では、大人たちが露店を畳んだり、舞台を片付けたりと忙しそうだ。
子どもの僕らが、出る幕はなさそうだ。


あっという間やったね。もうちょっと楽しみたかったけどな……。

片づけられていく祭りの名残を眺めながら、サーヤは寂しそうに呟いた。
ま、しゃあないか。でも、ええ思い出になったわ。あんたには、感謝してる。
こちらこそ……。去年の埋め合わせになったかな?と、僕は尋ねた。
去年のことは、もう忘れようや。うちは、もう忘れた。
そう言って貰えると、凄く気持ちが楽になる。
でも、これでお別れやな。うち、明日には次の村に向かわなあかんねん。
サーヤが、僕の村からいなくなってしまう。
ここで別れたら、次に会えるのは……また一年後?
もし、よかったら見送りに来てくれる? あ、でも学校があるか……。なら、見送りは無理やな。
サーヤは、学校には通わずにずっと村から村へと渡り歩いている。
けどサーヤだって、一緒にお祭りに行ったり、遊んだりする友達が欲しいはずだ。
僕は、思わず「この町で一緒に暮らそうよ」とサーヤに言ってしまった。
──金魚師としての仕事は、大人になってからでもできる。
──この村に残って僕と一緒の学校に通って、一緒に勉強する。
──同じ学校に通えば、僕の友達も沢山紹介してあげられるし……。
──サーヤなら、きっとみんなと仲良くなれるよ。
──だから、この村に残ってよ。
一息で、僕は頭に浮かんだ言葉を、一気にはき出していた。
……うーん。
サーヤは、あまりいい表情をしていなかった。
え、どうして……?
それ、楽しそうやな? あんたと一緒に机並べて勉強する。
サーヤは、うんうんと首を何度も縦に振る。
そして休みになったら、友達と遊びに行くんか……。想像するだけでわくわくしてくるわ。
よかった、やっぱりサーヤも僕と同じ気持ちだったんだ。
でも、この村にうちの家はない。学校に通えたとしても……帰る家がないわ。
──僕の家に住めばいいよ。
え? あんたの家に?
サーヤは目を丸くしていた。
──母さんに頼んであげる。サーヤは、いい子だからきっとお母さんも許してくれるはず。
なんの根拠もなかったけど、僕はサーヤを引き留めたくて必死だった。
そ……そうなん? でも、どうやろなぁ……?
──家に帰って母さんに聞いてみるよ。
──きっとサーヤを連れてきていいって言うはずだ。
──だから、ここで待ってて。すぐに戻ってくる。

※話の最初に戻る
③祭りのあと

急いで家に戻った僕は、母さんにサーヤのことを話した。
──サーヤは旅の芸人、とっても可哀想な子なんだ。
──学校に行ってもいなくて、友達も少ない。
──サーヤは、寂しがっている。
──だから、家に住まわせて、僕と同じ学校に通わせてあげようよ。
──サーヤのことは、僕が面倒を見るから。絶対に母さんには迷惑をかけない。
──それに彼女は凄いんだ。
──金魚師といって、金魚を自在に操ることができる技を持ってて……。
そう熱心に話す僕を見つめる母さんの目は、とても冷ややかだった。
話が終わったあと、母さんは静かに言った。
「犬や猫じゃあるまいし。人ひとりを易々と引き取れるわけないでしょ?」
「そもそも、そんな旅の芸人の子とあんたは、住む世界が違うの」
「もう二度と関わっちゃダメよ」
それが母さんの返事だった。
話はそれで終わりとばかりに打ち切って、それ以上、僕がなにを言っても聞いてはくれなかった。
僕は、力のない足取りで、サーヤのところに戻った。
母さんを説得することができなかった。
サーヤになんて言えばいいのか……。


その顔やと、ダメやったようやな。

ごめん、と僕はうなだれた。
またしても、僕はサーヤとの約束を破ってしまった。
でも、サーヤは怒った様子を見せなかった。
ええんや。どうせダメやと、最初からわかってたわ。
まるで、はじめからこうなると分かっていたようにさばさばしていた。
だから、あんたが落ち込む必要ない。うちを喜ばせようと頑張ってくれたんは、わかっとるから。
──でも、このままじゃサーヤは……。
そやな。明日には、この村からいなくなる。
と、まるで他人事のように言う。
また来年までサーヤに会えないのか。それは、とても寂しい。
いや、実は……この村の祭りに来るのは、今年で最後なんや。
──どうして?
そう尋ねる僕。サーヤは寂しそうに顔を伏せた。


翌日、僕は学校に行く気にもならずに、昨日の場所で寝転がっていた。
青い空を、白い雲が流れていく。
そろそろサーヤが、この村を旅立つ時間だ。
せめて見送りに行くべきだろう。
だけど、身体が動かない。


今年でこの村に来るのは最後なんや。来年は、金魚師の舞台はないねん。
──来年も金魚師として祭りの舞台に上がってくれるんじゃないの?
うちみたいな古い芸人は、もうこの村の祭りにはふさわしくないらしいわ。
来年からは、もっと「はいそ」で「せんす」のええ、興行師たちがやってくるらしい……。
それが、この祭りを主催している大人たちの決断らしいわ。
そんな……。
ま、しゃーないわ。うちら芸人は、必要ないと言われたらそれまでや。必要とされるところに行くまでや。
僕には、なにも言えなかった。
祭りを主催しているのは、この村の寄合いで……。
その寄合いには、僕の両親も参加しているからだ。
だからもうおしまいや。でも、楽しかったで。この村のことは、絶対に忘れへん。
もちろん、あんたのこともな。


もう、サーヤには会えない。
そう思うと、無性に寂しくなり、なにもかもが、どうでもよく感じ始めた。
もう会えないなら、いっそ……見送りにも行かない方がいいんじゃないか?
きっとサーヤは悲しむだろうな。
もやもやした気持ちを抱えたまま、僕は無駄に時間を浪費していた。
しばらく考えたあと──
やっぱり、見送りには行くべきだと、僕は勢いよく立ち上がった。
母さんがダメっていうなら、僕がこの村を離れてサーヤに付いていく。
こんなくだらない村……。捨てたところで、僕には痛くもかゆくもない。


あんた、また変なこと考えてるんやない?

サーヤ……? どうしてここに?
だって、今日この村から旅立つって……。
もちろん出て行く。けど、この村を出て行く前にな、あんたの顔見たくなった。それだけや。
そう言って、サーヤは微笑んだ。
サーヤの顔を見たら、僕も一緒にこの村を出る……なんて、無責任なことは言えなかった。
サーヤにそんなこと言ったら、笑い飛ばされるに決まってる。
どないしたん? ずっと暗い顔してるで。なんや、うちと別れるのんが寂しいんか?
──寂しいよ
ほんまに? 嘘でも嬉しいわ。
僕がもう少し大きかったら、サーヤと離れ離れになる必要はなかっただろう。
僕は今日はじめて、自分が子どもであることを悔しいと思った。
あんたの顔見たら、すっきりしたわ。それじゃあ、これでお別れや。最後に……。
と、サーヤは手を差し伸べてきた。
僕は、その手を握り返す。
暖かい……花火を見ながら繋いだ時と、まったく同じぬくもりだった。
うちみたいなもんに優しくしてくれて、ありがとう。ほんまに、ありがとうな?
今の僕に言えることはなにもない。
中途半端なことを言って、サーヤとの約束を破ることになるのは嫌だから。
だけど、このまま気持ちを伝えないまま、サーヤと別れたくない。
だから、僕はサーヤの目を見てはっきり言った。
──待ってて欲しい。
──大きくなったら、絶対にサーヤを迎えに行くから。
サーヤは、目を開いてきょとんとしていたけど……。
すぐに明るく表情を崩した。
うん、楽しみにしとるわ!
僕の気持ちは、嘘じゃない。
何年後になるかわからないけど、絶対にサーヤを迎えに行く。
サーヤがどこにいようと、絶対に……。
僕は、黙って小指を突き出した。
約束してくれるん? でも、うちはもう約束破られるんはいやや。その覚悟はあるんか?
僕は、深くうなずいた。
そして、僕とサーヤは小指を絡ませあう。
「指切りげんまん~嘘ついたら針千本飲ます~」
僕とサーヤの歌声は重なりあって、青い空に吸い込まれていく。
──この約束は永遠だ……。
──僕たちのどちらかが、破ろうとしない限り、絶対に破られることはない。
そや。今度約束破ったら、うちはあんたのこと、絶対に許さんからな?
──サーヤこそ、忘れないでよ?
お互い笑い合ってから……サーヤは目に溜まった涙を指先でぬぐった。


それじゃあ、元気で。金魚を見たら、うちのこと思い出してや?

そして僕は、サーヤと別れた。


しばらくして、家に手紙が来た。
サーヤからの手紙だった。
サーヤは今もどこか遠い町で、金魚師として働いている。
色々大変だけど、はじめていく村で、色んな人と出会い、色んなことを体験して、サーヤはちょっとずつ成長しているらしい。
なんでも、今年は半年でかなり背が伸びたという。
次にサーヤに会うまで、僕も負けてられないな。
読み終えた手紙を封筒にしまい、僕は夕日が沈む窓の外を眺めた。
そして僕は、思い浮かべる。
遠く知らない町……。


金魚たちと一緒にどこかのお祭りの舞台で、華やかに舞い踊っているサーヤの姿を──。


※話の最初に戻る
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