カイン

１０８ある異界の中には、崩壊へ突き進んでいく異界もある。
カインが元居た異界も、そうした異界のひとつであるはずだった。

だが、彼らは異界の寿命を延ばす歪（いびつ）な方法を編み出す。
世界に「眠り続ける神」を据えることで、異界そのものを「神の夢」の中に移植する。

その神は、この異界において『卵』と呼ばれている。
今日という日は、それが生まれる日だった。

――だが、祝福の日は訪れなかったのだ。

「どういうことだカイン、『卵』はどこに行ってしまったのだ！」
「申し開きのしようもございません。事故とはいえ――」

カインは歯噛みする。こんなはずではなかったと。
本来ならば世界を救った英雄として、崇められていたはずなのに。
そう、この世界に産み落とされるはずだった『卵』は、
どういうわけか別の異界へと産み落とされてしまっていたのだ。

「場所は既に判明しております。異界『クエス＝アリアス』。そこに卵は――」
「黙れ！」

頭を垂れるカインに対し、怒りによって不定形の体を赤熱させながら、
この世界を統治する王は不気味な声で叫んだ。

「言い訳を聞くために貴様を呼んだ訳ではない。連れ戻せ、どういう形でも構わぬ！」
「……必ず」

バキン、という強烈な音とともに、
抑え切れないカインの怒りが、雷槌となって周囲の柱を打つ。

彼もまた、神の一柱だった。

クエス＝アリアスへと降り立った彼は、程なくしてその『卵』を発見する。

『卵』は既に孵りかけていた。
そして、あろうことか自我を持ち、眠りから覚めていたのだ。

「なんということだ……これでは……」

ルールの違う世界に降り立った神は、ただただ呪いを撒くだけの装置と成り果てる。

この『卵』を壊さなければならない。
殻を破り、「核」を取り出し、早急に『卵』を作りなおさなければならない。
そうしなければ、この世界はおろか、彼の世界も終わってしまうだろう。

だから、彼は『卵』の一切を、赦すわけにはいかなかった。
何があろうと確実に、一切の油断や容赦なく、
紛うことなき終焉をこの『卵』に与える必要がある。

彼はそのために、『卵』へと手を伸ばした。

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