うわつかない漢
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「……私、そろそろ生徒会室に戻る。途中で出てきちゃったから」
「おう、がんばれよ」
「ええ」
黒髪をたなびかせながら去っていくリンカの背中を見送りながら、
ヴォルフは赤く染まりかけた空を見て目を細めた。
遠くの空を優雅に泳ぐ雲は、どんどん東へと流れていく。
手の届かない場所にあるものが、時間という大きな流れに動かされていくようで、
ヴォルフはその景色を見て一つ舌打ちをした。
「……もう、あんな馬鹿騒ぎする時間も、あんまりねえんだよな」
自分の制服の裾にじゃれつく猫を撫でながら、彼はそう小さく呟く。
学校という場所に居る以上、最後に行き着く先は決まっていた。
その場所の名は「卒業」。
そしてその時が来れば、このクロム・マグナ魔道学園に居る人間たちは、
あらゆる意味で違う道を歩き出す。
──ここを出れば敵同士になるかもしれねぇしな。
自分で言った言葉に、ヴォルフは嫌気が差した。
隣で笑い合っていた人間たちと、立つ場所が違うというだけで
生命を賭して争わなければならないなんて、馬鹿げている。
だが、この世界に、そしてこの学園に居る以上、
その未来からは逃れられないことを、
誰よりもヴォルフは承知し抜いていた。
──コレ以上誰かに踏み込む勇気は、俺にはねぇよ。
リンカに言ったこの言葉には、言葉以上の意味があった。
誰かに踏み込まない代わりに、誰にも踏み込ませない。
動物たちに囲まれ、寂しさとは無縁であると思われた彼は、
誰よりも孤独で、寂しがり屋だった。
(失っちまうことがわかってて、大事なモンを作るほど
……俺はまだ強くねぇよ)
心のなかでそう呟き、ヴォルフは猫を抱き上げ立ち上がる。
「お前くらいは、俺の隣にいてくれよな」
「わたしも隣にいるよ、ヴォルフ先輩」
明るい声が、隣から聞こえる。
振り向けば、そこには見慣れた笑顔があった。
「……ああ、卒業までは、頼むぜ。シャーリー」
「えへへー、頼りにされます!」
ニッコリと笑う後輩の頭をポンポン、と叩きながら、ヴォルフは歩き出した。
たまには、誰かが近くに居るのも悪くないかもしれない、と思いながら。
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