ネグル

焔の爪怪人、ネグル・フンムは覚醒人間である。
彼を覚醒させた組織は、国家転覆を狙う悪の秘密機関である。

もともと彼は地下闘技場で活躍する駆け出しの格闘家であった。
表舞台でも十分戦える実力を持っていたが、
少しでも稼ぎのいい裏の世界へと足を踏み入れたのだ。
たった一人の妹の治療費を稼ぐために……

実力をメキメキと付けていった彼の格闘技人生に、突然悲劇が起こる。
八百長の取り決めを無視した彼は、他の格闘家たちから制裁を受けてしまったのだ。

「俺は自分の全力を出して戦いてえだけだ……」

裏の世界に身を投じたとはいえ、彼は真の格闘家としての矜持は捨てていなかった。
失望した彼は、その後、格闘技界から姿を消すことになる。

妹の治療費が払えなくなり途方に暮れる彼の元に、ある日黒服の男が現れた。

仕事がある。
そう言って連れて行かれたのは秘密機関の実験室だった。
そこに責任者らしい白衣をまとったドクターがやってきて、彼にこう告げた。

「もっと強くなりたかったら私たちに協力するんだ」
「協力？」
「ほんの少しだけ手術を受けさえすればいい。
　そしたらお前を潰したヤツらに復讐だってできる……それに……」

手術を受ければ妹の治療も引き受けてやる。
そんな条件に心動かされた彼は迷いながらも承諾してしまう。

すぐに手術が始まり、彼は深い眠りに落ちていった。

どれくらい経ったのだろう――目覚めるとそこは拘置所のような檻の中だった。
出してくれ！　叫びながら鉄柵を掴んだ彼は、手に違和感を覚えた。

なんだこれは！？

指先には巨大な鉤爪が付いていたのだ。
訳も分からず頭を掻きむしるネグルの爪が、コツンと乾いた音を立てた。

恐る恐る窓に映る自分の姿を見た彼は驚愕した。
そこには以前の自分とは似ても似つかない、
角を生やした怪人が立っているではないか！

「お目覚めのようだね」

そこにいたのは手術をしたドクターだった。

「ドウイウコトダッ！？」

野獣のように歪んだ声が室内に響く。

「どうだね？　世界最強の男となった気分は」
「オレガ、セカイサイキョウ？」
「そう。君は覚醒人間として生まれ変わったのだ！」

国家転覆を企むこの機関では、才能ある人間の潜在能力を解放し、
覚醒人間を造り出す新たな実験が行われていたのである。

「イモウトハ？　イモウトハドウシタ！？」
「妹？　君に妹などいたのか？」

嘲笑を浮かべながらそう告げるドクターを見て、彼は騙されたことを悟った。

「ウウォーーーー！！！！」

怒り狂う彼の体から突然炎が立ちのぼる。
潜在能力の解き放たれた彼は、
鉄柵を飴細工のように捻じ曲げられるほど強化されていたのだ。
檻から飛び出した彼は、すぐに妹と暮らしていた部屋へと走った
……が、そこに妹の姿はない。

絶望に打ちひしがれた彼は人目を避けながら街をさまよった。
そこで彼は、一枚の張り紙に気付き足を止めた。
それは南の島で格闘大会が開かれるというものだった。
優勝賞金は一億ダイヤだとも記されている。

この大会に出場し活躍すれば、妹が自分の名前に気付くかもしれない。
しかも優勝したら賞金で妹の手術だってできる。
こうして一縷の希望を見出した焔の爪怪人ネグルは、
大会に出場するためツヨイノエラブ島へ向かったのだ。

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