ユピテス

「さぁ、供に鍛えよう！」

ユピテス・ジョバは、今日も新兵達を前に自慢の筋肉に力を込めた。
一介の重装兵から連隊長にまで成り上がったユピテスの肉体は、
極限にまで鍛え抜かれ、もはや鎧を必要としない。
そんなユピテスが練り上げた新兵訓練プログラムは過酷を極める。

訓練を始めるにあたり、新兵には小さな腰布が一枚支給される。
訓練期間中、彼らはその腰布以外何も身に着けてはならない。

「よーし、では本日の訓練を開始する！　ポーズをとれ！
　まずはフロントリラックスだ！」

腰布一つで整列した新兵達は、ユピテスの声を受けて全身の筋肉に力を入れる。

「そうだ！　き、ん、に、く、に、ち、か、ら、を……！」

己の肉体に力を込めながら、ユピテスは続ける。

「――込めろぉ！　リラックスは休憩にあらず！
　如何なる時にも己の筋肉を休ませてはいけない！」

――そう。彼らはその日の訓練が終わるまで、決して筋肉を弛める事が出来ないのだ！

「よし、そのままダブル・バイセップスへ移行しろ！　こんな感じでグワーっと！」

そう言いながら両腕を曲げ、上腕二頭筋を隆起させるユピテス。

「そうだ！　想像しろ！　俺の、いやお前らの肉体を前に、
　怖れ、ひれ伏す敵兵の姿を！」

こうして今日もユピテス流「魅せる！肉体改造」訓練は続いていく……はずだった。

――異変は突然始まる。

「隊長！　上を見てください！　何かがこちらへ――」

新兵の声にユピテスは空を見上げる。
同時に大地が激しく揺れ始めた。

「隕石だ！　こっちへ落ちてくるぞ！」

炎を引きながら落下してくる無数の隕石を前に、パニックになる新兵達。

「狼狽えるな！　今こそ訓練の成果を魅せる……いや、見せるんだ！」

ユピテスはそう叫ぶが、まだポージングしか教わっていない新兵に出来る事はない。
ユピテスは一人、大地を蹴ると、上空高くまで跳び上がる。

「我が肉体に一遍の弛みなし！」

突き上げた拳が隕石を打ち砕く！
続けて華麗に身を翻し、ユピテスは降り注ぐ隕石を次々と素手で粉砕していく。

新兵達は思った――
言っている事はよくわからんが、とにかく凄い男だ――と。

※話の最初に戻る