俺が生まれた頃には、父上が統治していた国は、列強によってその半分が奪い去られていた。
しかし、この国に暮らす人々は、それでも笑顔を絶やさず強く生きていた。
だが小国は、支配され、強奪され、侵略されるだけ。
俺──アーサー・キャメロットは、それが許せなかった。
だから父上が倒れ、俺が王に即位したとき、すぐさま戦に身を投じようと決意した。
声を張り上げ、俺は友を呼ぶ。
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トリスタン! トリスタンは──っと、おお、いるじゃないか。
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| トリスタンはいつの間にか俺の傍らに控えていて、目が合うと彼は小さく頷いた。 | |
 | 奴らが諸国に侵攻し、ここに向かってきているというのは事実か? | |
| 強国と呼ばれる奴らが、また侵略を開始した、と耳にした。 | |
| 寡黙な男であるトリスタンは首を縦に振り、俺の言葉を肯定する。 | |
| 俺が王になって以降、トリスタンを含む騎士たちと、多くの戦を乗り越えてきた。 | |
| 領土を取り戻し、数多くの強国を打ち破ってきたのは、紛れもなく騎士たちの力によるものだ。 | |
 | 兵を集めろ、トリスタン! あいつらの軍が踏み入る前に、こちらから仕掛ける! | |
 | 必ず打ち破り、我々が強大であることをしらしめろ! 我々には勝てぬのだと理解させてやれ! | |
| 長く苦しめられてきたんだ。俺たちは強い、もうお前らには負けないのだと奴らに叩き込んでやる。 | |
| 俺は剣を抜き、はるか遠くを指して叫んだ。 | |
 | 征くぞ、トリスタン! 進軍開始だ! | |
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 | ここで間違いないな? | |
| 俺の騎士のひとり、ガウェインが"恐らくは"と曖昧に言う。 | |
 | さすがにそこまで容易く情報は漏れないか。 | |
| 王になってから今に至るまで、多くの騎士、そして民に救われてきた。 | |
| 俺は国を愛していたし、強国に支配されようと矜持を捨てなかった民を敬っていた。 | |
| だから俺は──いや、俺と俺の騎士たちは戦い続ける。 | |
| この国と、国民のために──二度と屈辱的な侵略に遭わないために。 | |
 | ……奴らは? | |
| 周囲には我が軍と、騎士たち以外にいない。 | |
| "どうやら──"とトリスタンが囁くような声音で口にする。 | |
 | ふっ、なるほど……それは都合がいいじゃないか。 | |
| トリスタンが言うには、奴らは魔物の群れに襲撃され、思わぬ足止めを食っているようだった。 | |
| 加えて魔物たちは、ここに向かってきている、と。 | |
 | 魔物が何匹現れようと、俺たちのやることは変わらない。どのみち全部叩くんだ。 | |
| 人の凶暴さ、醜さ──その歪みに比べれば、魔物など恐れるに値しない。 | |
 | さあ、やるぞ! 手始めに魔物狩りだッ!! | |
(戦闘終了後)
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| あたりは暗がりで、敵を蹴散らして初めて、夜になっていることに気づいた。 | |
| 奴らの軍勢を半数以上削り、それに対して俺たちの被害はほとんどないと言っていい。 | |
| 国を守り抜くという意志、必ず生きて戻るという士気が、俺たちを強くしていく。 | |
 | できることなら……。 | |
| 俺は騎士たちの前で、しかし誰に言うでもなく漏らした。 | |
 | できることなら、争いのない平和な世界で静かに暮らしてみたい。 | |
| ガウェインは何が可笑しかったのか、口元を笑み歪める。 | |
| そして、"そのような世界があるのなら見てみたいものです"と言った。 | |
 | また馬鹿を言っていると思っただろう? 夢を語ることの何が馬鹿か。 | |
| 俺は少し熱くなって、そう口にした。 | |
 | 俺の騎士と、俺たちの民と国があれば、なんだってできるんだ。この夢もいつかは──。 | |
| そこまで言って、俺は言葉を止めた。 | |
| いつか? いつかというのは、いったいいつだ? | |
 | ふっ……そうか、そうだな。 | |
| 俺はひとり呟き、俺の剣──騎士たちを見た。 | |
 | お前たちとなら、世界を平和にすることもできるかもしれない。 | |
| トリスタンが首を縦に振り、俺の言葉を首肯する。 | |
 | 俺は世界を統治し、戦のない平和な世を作る。 | |
 | 騎士よ。俺の剣よ。誓ってくれ。この身朽ちるまで、お前たちが俺の剣で在り続けることを。 | |
| 夢見心地な台詞にも、だが騎士たちは決して目を背けない。 | |
| 騎士たちは、皆が同様に頷き、"王の道は我々が作る"と言った。 | |
| 俺にはこれだけ心強い仲間がいる。 | |
| こいつらとなら、俺の夢が叶うのも──そう遠くはない。そう思った。 | |